1984年(昭和59年)8月の記録
                     
                     −深夜の市場駅 デ1350形1359の搬入作業−




       

       有馬寄にまだ非冷房の1076を連結して3連を組成した、デビューしたての1357+1358。
       1353から設計変更された、標識板取付用の台座省略で、前面がツルリとした印象を受けます。
       現在は1359+1360と4連固定編成化され、1358・1359が先頭に立つことはなくなってしまいました。


       さて、前回の広野ゴルフ場交換設備増設工事を見てから後日・・・。漆黒の闇の中を、深夜の市場駅へ向かいました。
       お目当ては約2年ぶりに4両が新造された、デ1350形の搬入作業です。


       
 ― 神戸電鉄の新造車両搬入について ― 

       神戸電鉄の軌間は国鉄(現JR)と同様の1067mmの為、かつては三田・粟生の両駅において国鉄からの貨車が
       乗り入れていた時代もあり、新造車両の搬入も粟生駅から行われていました。
       その後、国鉄加古川線の貨物輸送廃止に伴って搬入は三田駅経由となりましたが、国鉄の貨物輸送合理化の
       あおりを受けて三田駅の貨物取扱も廃止となってしまいました。
       これ以降、新造車両の搬入は昭和57年10月製造の1353Fより、トレーラーによる陸送に変更されました。

       神戸電鉄の車両工場がある鈴蘭台までは、一般道路経由の場合急勾配・急曲線が避けられない為最短ルートでの
       回送が困難であり、比較的平坦な場所まで輸送の上、搬入作業を実施する必要があります。
       このため、主要道に面し、かつ駅前に広大なスペースが確保できる粟生線の市場駅に白羽の矢が立った訳です。

       当初は搬入前日の深夜に川重兵庫工場を発った新造車両を、到着後すぐにクレーンで軌道上に載せた後、デキで
       鈴蘭台へ引き上げるといった電光石火の早業(?)が繰り広げられていましたが、1990年には小野保線詰所の移設と
       併せて車両搬入基地も完成、同年9月搬入の3015Fより使用が開始されました。
       現在では深夜に川重から運ばれてきた新造車両の搬入は昼間に行われ、翌日深夜に鈴蘭台へ引き上げられます。

       それでは、1984年8月に行われた、デ1350形1359号車の搬入作業をご紹介していきましょう。
       尚、撮影に当たっては、神戸電鉄(株)のご協力と許可を頂き、安全な場所からの撮影を行っています。


    

  搬入用のクレーン車と台車を乗せたトラックは、既に先着。小野行の最終電車からも、搬入作業に加わると思しき作業服姿の方が
  何人か下車してきました。
  23:56、新造車引揚の為に回送されたデキが市場に到着。鈴蘭台を23:10に出発し、最終電車を追いかけてやってきました。
  すぐに前照灯を消した後にパンタも降下。深夜の作業に備え、やや離れた場所で待機します。

  日付は変わって00:45、作業員の「電車来たぞ〜っ!」の声。少し静寂を取り戻していた構内が、俄かに活気づいてきます。
  やがて、闇の彼方から黄色いパトランプが姿を表し、次第に近付いてくるのが分かります。
  後方には、自分の背丈よりもはるかに大きい電車を従え、次第に迫ってくるトレーラーが闇に浮かびあがってくるのがはっきりと
  捉えられました。


       

       市場駅前に到着した1359号車。方向幕は何故か「道場南口 通勤急行」の表示です。
       連解5連運用の増結車として使用される為、連結器は廻り子式密連タイプです。


    

  輸送編成は先頭から、先導車(ライトバン)〜トレーラー+1359号車〜後方警戒用のトレーラー(写真左)の3台で組成されていました。
  到着後は息つく間もなく、すぐに搬入作業の開始です。
  車体をクレーンで持ち上げて本線上に降ろす為、既に作業個所の架線は一旦取り外されていました。


       

       

       線路に対し垂直方向に据えられた大型クレーン車2台を使って、豪快に車体を持ち上げます。
       陸送用のタイヤを履いていた18mの車体が、ふわりと宙に浮きました。ホーム端に車体をぶつけないよう、
       慎重に作業は進められていきます。


       

       体制を整えたところで一旦停止。ホームの高さまで、車体が浮き上がっている様子が分かります。
       既に本線上に載せられた台車を、人力で車体下部まで移動させます。


    

       

       01:50、ゆっくりゆっくりと次第に車体を降ろし、無事台車との据え付け完了です。お見事!

       搬入作業の終了後は、即座に撤収作業と架線の復旧作業が進んていきます。
       02:12、川重から1359号車を引っ張ってきたトレーラーが撤収。
       3分後の02:15には大型クレーン車2台も引き上げ、構内は急に静かになりました。


    

  架線の復旧作業も終わり、気がつけばいつの間にか外れで待機していたデキのパンタが上がっていました。
  ツリカケモータの重たい音を響かせ、ゆっくりと新車の傍らに近付くデキ。何度かの微速前進を繰り返し、連結完了!


       

       沿道を走る車も少なく、すっかり静けさを取り戻した構内に、デキのブロアー音が一際響きます。
       神戸寄にホッパー車を連結した普段の姿では見られない、前パン姿が格好いいです。


       

       ブレーキテストを終え、準備も整って鈴蘭台へ引き揚げる直前のデキと1359号車。
       当時は一日に一両ずつの搬入でしたが、牽引定数上ではM車換算で2両まで(75t)の牽引が可能です。
       また、引揚に使用される牽引用車両も、現在では1000系列車両に変更されています。


       1357Fの4両は、1984年8月6〜7・9〜10・14〜15・17〜18日の4回に分けて搬入作業が行われ、各種試運転の後
       翌月3日より営業運転に投入されました。

       1357Fの営業運転開始当時の姿はこちらから!




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