−エピローグ・・・「想い出多き電車へのメッセージ」−
3月21日のさよなら運転が終了し、私達の前から姿を消した800系。
それから丁度10日後の3月31日、最後まで活躍を続けた852F・861Fの2編成6両はこの日を以って正式に
廃車手続が取られました。
神戸電鉄から営業用のツリカケ車が姿を消した瞬間でした。
それば同時に、兵庫県内の鉄道からも営業用のツリカケ車が一掃された事を意味していました。
季節は4月となり、いつしか沿線はさくら並木が乗客の目を和ませる季節に・・・。
車籍が消えた10日後に見津車庫を訪れた時には、852解体作業の真っ最中。
つい20日程前まで元気に活躍していた彼らの姿は、窓枠も扉も外されてただの「鉄の箱」になっていました。
電車小僧としては、心が痛む姿でもありました・・・。
852よりも先に解体されたのでしょうか、807と808の姿は既にありませんでした。傍らには808の台車から外された車輪が
無造作に置かれていました。
約60年以上の間、ひたすらお客さんを乗せて山道に挑んだ110kwのツリカケモータ、MB-146A。
私達の足元で、独特の唸り声を上げる事ももうありません。
旧塗装の852も、これで見納めです。この後には861Fも続けて解体され、翌週には殆ど作業も終了していました。。
(上記写真はいずれも93.4.10 見津車庫にて 許可を得て撮影)
「想い出の800系」 完結に寄せて・・・
今日、約10年ぶりぐらいに800系引退直前のVTRを出して来ました。
当時まだ発売したばかりのハンディVTRで、三木〜粟生間往復と菊水山〜鈴蘭台間の車内走行シーンを
撮っていたものです。普段はほぼスチールカメラオンリーでVTRはあまり触らない方なのですが、HB間接
非自動制御やSMEブレーキの独特な扱いを残して置きたいと思ったのでした。
改めて見ると、外見は他の1000系列と同じ割には車体をガタピシと揺さぶらせ、老体に鞭打って?走るさまが
何とも印象的でした。
だからこそ、事情をしらない一般のお客さんには「オンボロ電車」と言われる所以でしょうかね・・・。
しかし、ツリカケモータの音を目一杯唸らせながら50パーミルの坂道に挑戦する姿は、軽快に山道を越えてゆく
現在の5000系にはない「力強さ」があります。
力行13段・電製8段を左手で巧みに操り、停車の際のブレーキも制動位置にハンドルを回して2〜3秒後に
「・・・・・・シャーッ」と制輪子の擦れる音が聞こえ、ややあって減速して行く800系独特の走りは、非常に興味深い
ものでもあり、乗車した時の毎度の楽しみでもありました。運転士さんの腕の見せ所でしょうね。
800系は他の高性能車と異なって弱め界磁も持たず、1000系車両の2ノッチよりも性能が劣る為、ダイヤのスジを
若干寝かせた独自の運用を組んで走っていました(800系の性能は1000系列の全界磁とほぼ同等。1000系列の
2ノッチは弱め界磁2段まで進段)
大村を出て樫山へ向かう坂道を、フルノッチで登っても45km/h前後の速度しか出ない800系。
それでも懸命にサミットを超えると、やれやれといった様子で軽く電制を効かせながら、やがて軽快にジョイント音を
響かせる様子には、現在の新しい電車にはない「人間くささ」が随所に感じられます。
こんな所にも、私が800系に魅了された理由があるのかもしれません。
営業用では有りませんが、現在でも神戸電鉄には事業用の電動貨車、デヤ750形2両と電気機関車の701が
ツリカケモータの音を響かせて今でも活躍しています。
沿線で工臨列車が目前を通り過ぎて行く時、小さくなってゆく茶坊主達の後姿には、かつて追いかけていた
800系の面影が今でも重なって写ってるような、そんな気がします・・・。
永年の活躍と私達の想い出造りに感謝をしつつ・・・
(2006.7.16 記)
92.9.19 恵比須